■アルツハイマー病治療に新たな標的が浮上
同志社大学教授の井原康夫氏の作成図を西道氏が改変
「タウ蛋白質の凝集と脳の萎縮を加速する因子CAPONの同定」橋本氏らは、蛋白質の CAPON(Cterminal PDZ ligand of nNOS)がアルツハイマー病の悪性化に関与することを突き止めたのだ。
CAPON欠損でモデルマウスの神経変性が抑制
この遷移機構を明らかにすることを目的に、研究チームはまず、タウ病理形成に関わる蛋白質の「インタラクト―ム解析」を行った。
これは、特定の蛋白質と相互作用する蛋白質を、免疫沈降法などにより抽出した上で、質量分析によって網羅的に同定する解析方法だ。
その結果、CAPONという蛋白質がタウ蛋白質に結合することが明らかとなった。CAPONは既知の蛋白質で、神経型一酸化窒素合成酵素(nNOS)と結合し、神経伝達物質の受容体の一種であるNMDA受容体を介した興奮毒性などに関わることなどが報告されていた。
しかし、アルツハイマー病における機能は明らかではなかった。
そこで研究チームは、このCAPONに着目し、タウ病理形成にどのようにかかわるのかを検証した。
まずアミロイド病理を再現する特徴を持つAppNL-G-Fノックイン(KI)マウスを使って、CAPONの発現を解析。その結果、AppNL-G-FKIマウスの脳の海馬の錐体細胞層にCAPONが蓄積していることが判明した。
アルツハイマー病患者の脳でも同様の現象が報告されていることから、「アミロイド病理下でCAPONが海馬に蓄積することが、その後のアルツハイマー病の病理に影響を及ぼすと考えられた」という。
これらの結果を基に研究チームは、次の段階に進んだ。マウスでヒトの脳と同じ様式でタウ蛋白質を発現するMAPT KIマウス(ヒト型タウKIマウス)を作製。
さらに、AppNL-G-F KIマウスとMAPT KIマウスを掛け合わせたダブルKIマウス(アミロイド病理下でタウ蛋白質を発現するマウス)において、アデノ随伴ウイルスベクターを使ってCAPONを過剰発現させた。
すると、CAPON過剰発現によって、タウ病理および神経細胞死が誘導され、海馬が萎縮することが分かった
AppNL-G-F KIとMAPT KIのダブルノックインマウスに、アデノ随伴ウイルスを用いてCAPON遺伝子を過剰発現させ、7日後と3カ月後にMRIの撮像を行った。
CAPONを過剰発現させて3カ月経つと、有意に海馬が萎縮していることが認められた(図の点線部分)。(出典:Hashimoto et al., Nat Comm, 2019)
さらに、神経細胞死が誘発される機構を調べたところ、細胞死のマーカーだけではなく、炎症性細胞死のマーカーの上昇も認めた。このことから研究チームは、単一の経路ではなく、複雑なメカニズムを経て神経細胞死が誘発されると考察している。
過剰発現とは逆に、CAPON遺伝子を欠損させる実験も行っている。
その結果、タウ病理と神経細胞死を再現するモデルマウス(P301S-Tau-Tg)では、脳の萎縮が抑制されることが明らかになった
右の画像は、CAPONノックアウトマウスとP301S-Tau-Tgマウスを掛け合わせたマウスの脳切片(H&E染色画像)。P301S-Tau-Tgマウス(中央の画像)で見られる脳の萎縮が、CAPONの欠損によって有意に抑制されていることが分かる。また右画像では、神経細胞死が起きて白く見える部分が減少し、かつ海馬や大脳皮質の大きさや厚みが中央画像ほど縮小していないことが分かる。(出典:Hashimoto et al., Nat Comm, 2019)
以上の結果から橋本氏らは、「CAPONはアミロイド病理下において、タウ病理、神経細胞死を誘導する重要な因子である」と結論している。
特に、タウ病理と神経細胞死を再現するモデルマウスでCAPON遺伝子を欠損させると脳の萎縮が抑制されることが確認できた点に着目。
研究チームは「今後、新たなCAPONの機能を阻害するような薬剤(手法)が開発されれば、アルツハイマー病の進行を抑制できると期待できる」との見方を示す。
CAPONの機能を阻害するような薬剤(手法)としては、遺伝子発現を抑制する治療や遺伝子を破壊する遺伝子治療、さらに蛋白質との相互作用(protein-protein interaction::PPI)を阻害する治療などが応用できるという。
アルツハイマー病の新たな治療ターゲットに浮上したCAPON。タウ蛋白質との相互作用の解明から臨床への応用へと、今後の研究の進展に期待したい。
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